"Mission complete. RTB(Return to base). 帰るぞ、リーフ "
チッチッ。
無線機のスイッチを2度はじく。戦闘機乗りなら万国共通の「了解」のサイン。ちょっと行儀は悪いが気心知れたリーダー相手なら気にしない。エレメントリーダー(※)にでもなれたらこの弱そうなタックネーム(※)は改名したいものだ。
鹿島灘上空、高度10000m。ぼくの操るF-15イーグルはこの日の2by2(※)のDACT(異機種格闘訓練)を終えて茨城県の百里基地へ、これから帰投する。
雲はまるでちぎった綿がそのままフワフワ浮いているよう。それが機体の下をゆっくりと流れていく。今日の相手は三沢のF2(※)。相手は航学(※)でのリーダーの同期とのことだが、さすがに手強かった。ぼくの機体は彼のガンカメラ(※)のど真ん中に、今日何回捉えられたんだろう。
ため息を一つ。陸地が見えてきた。真正面には光を失い始めた橙色の太陽。この絶景はパイロットだけのもの。ここまでくればもう家に帰ってきたようなもん。フューエル、プレッシャー、テンパレチャー(※)・・、各種の計器を一瞬で眺め、異状のない事を確認。
基地に向けて高度を下げる。ギヤダウン(※)。カコン、という音とともに尻の下の方から軽い振動。機体の腹が3箇所で開く。脚が下りて固定されたゴトン、という音が機内にも聴こえる。
”ターキー2、Ready for landing(※)”。くそ、今日の惨敗はこのコールサイン(※)が元凶か。七面鳥?
管制塔からの応答。”Go Ahead”
計器を撫でた手袋がそのまま右の太もものポケットを軽くおさえる。そう、今日はホワイトデー。おみやげは何にしようか迷ったが、食べ物よりはモノとして残るものに・・との思いでイヤリングにしてみた。これなら訓練中にお守りになる。クッキーだったら8G旋回したら粉々になってしまう。
高度300m、家々はマッチ箱のように見える。ここまで来ると自然とスロットルから力が抜ける。田舎の基地とはいえ、こいつの2発のエンジンを吠えさせるのは気が引ける。
そろそろ彼女の家が見えるはず。今日の僕は4回は戦死したから、ブリーフィング(※)ではこってり絞られるだろうな・・。何時にあがれるだろうか。
お、青い屋根が見えてきた。気付いてくれるかな・・。ベランダに目を凝らす。昼間に星を見つける僕の視力は、あっさりベランダで空を見上げる彼女をロックオンした。手を振っている。おいおい、そっちはリーダー機だよ。
フラップダウン、さらに減速。滑走路が見えてくる。彼女のアパートの100m脇を僕のイーグルは通過。翼端灯のスイッチを連打。
5回点滅はアイシテルのサイン。ベタだが今日くらいいいだろう。後で管制塔に怒られるかな?
彼女の手を振る対象が、ぼくの機に切り替わった。それだけで、今日4回戦死したぼくは、生き返った心地がした。
(※)注記追加しました。
【エレメントリーダー】
複数の機を束ねるリーダー(多分2機か4機どっちか)。2機編隊、4機編隊、飛行隊長とリーダーにも格があるみたい。係長、課長、部長みたいなもんかな。
【タックネーム】
パイロット個々のコールサイン。機上ではこれで呼び合うのが常。階級が上のベテランパイロットほどかっこいいタックネームを名乗れる、らしい。今回の主人公「ぼく」のタックネームは「リーフ」。苗字に「葉」の字でもあったんでしょうか。
【2by2】
2機対2機
【三沢のF2】
航空自衛隊三沢基地所属のF2支援戦闘機。F15から見ても強敵。
【航学】
航空学校。自衛隊のパイロットになる一番の近道となる学校。ここに入学出来ても、本物の戦闘機乗りになれるのはごく一握りです。
【ガンカメラ】
模擬空戦の模様を納めたカメラ。訓練で相手を撃墜したかどうか、撮影されます。
【フューエル、プレッシャー、テンパレチャー】
燃料、油圧、油温、排気温など。
【ギヤダウン】
着陸のためタイヤを出すこと。
【Ready for landing】
着陸準備よし
【コールサイン】
タックネームとは違い、訓練用の編隊そのものに、その都度称号が付与されます。今回主人公の「リーフ」はターキーフライトの2番機だったことになります。
【ブリーフィング】
フライト前後にする打ち合わせ。通常の訓練では1時間の飛行の前後に綿密なブリーフィングをします。飛ぶ時間よりこっちの方が実は長いってこと。
※画像はナムコ:エースコンバットZEROより抜粋。このエッセイもどきは120%フィクションであり、書いてあることもかなりいい加減です。マニアの方突っ込まないで下さいm(__)m
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